株式会社住友倉庫
「トラック予約受付システム導入のリアル」、導入に苦戦しつつも、今は物流DXへの入り口として、住友倉庫が『トラック簿』に期待する理由
トラック予約受付システムへの注目が高まっている。
最たる理由は、「荷待ち・荷役作業等時間2時間以内ルール」(以下、2時間ルール)だろう。
これは、政府が行う「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシス対策の1つ、「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(2023年6月に発表)で掲げられたルールであり、物流企業らが守らなければならない目標でもある。
また政府は先のガイドラインと同じタイミングで発表した「物流革新に向けた政策パッケージ」において、物流の効率化に対し即効性のある設備投資として、フォークリフト、自動倉庫・無人荷役機器などの自動化・機械化と並び、バース予約システム(トラック予約受付システム)を名指ししている。
とは言え、トラック予約受付システムの導入に二の足を踏んでいる事業者もいるはずだ。
新たなシステムを導入するとなれば、必ず痛みが生じる。それでなくともデジタル化アレルギーの多い物流業界である。
「現場や、トラックドライバーたちが、拒絶反応を起こすのではないか?」と懸念するのは当然であろう。
今回、導入事例をご紹介する住友倉庫 南本牧第1倉庫は、2021年にトラック予約受付システム『トラック簿』を導入した。
導入に関わった現場担当者の1人は、「心が折れそうになった瞬間もあった」と振り返る。
大変な苦労をして『トラック簿』を現場に定着させた住友倉庫だったが、本稿執筆時点で24拠点に『トラック簿』を導入している。
さらに、『トラック簿』には、住友倉庫が推し進める物流DXの入り口としても期待をかけているそうだ。
住友倉庫における『トラック簿』導入のリアルなご苦労と、
その苦労を乗り越えられた理由、そして『トラック簿』への期待をレポートしよう。
『トラック簿』導入のいきさつ
南本牧第1倉庫を訪れたトラックドライバーが、真っ先に目にするのは、「携帯電話が無いと受付できません」という看板だ。しかも、音声でも同様の注意を流し続けるという念の入れようである。
実はこれこそが、住友倉庫が『トラック簿』導入における苦労の象徴である。
南本牧第1倉庫は2008年に竣工した営業倉庫であり、一日30台ほどの入出庫がある。
『トラック簿』導入以前は、1台あたり30分~1時間ほどの待機時間が生じていたそうだ。
住友倉庫南本牧第1倉庫 矢原雅俊氏は、「2021年の『トラック簿』導入以前から、受付業務をデジタル化・省力化しようという検討はしていました。
ただ当時はまだ私どもの希望を満たすソリューションがなく、実現には至りませんでした」と振り返る。
当時の南本牧第1倉庫は、2つの課題を抱えていた。
1つ目の課題は、トラックドライバーにかかっていた負担である。
受付時、ドライバーは、複数の書類に、同じような内容を記入する必要があった。
記入する手間もさることながら、さらに課題だったのは、ドライバーが受付に来る時間が同じ時間に集中することだった。
2つ目の課題は、庫内作業を効率的に把握することである。
『トラック簿』導入前、ドライバーは受付を済ませた後、現場担当者に伝票を渡すことになっていた。
その担当者は受け取った伝票をバインダーにとじ込み、それを都度確認しながら作業を進めていた。
つまり、作業の進捗状況を確認するためには、毎回バインダーを確認しなければならなかった。
作業進捗がひと目でわかる状況ではなかったため、時には作業順番(=待機順番)を間違えてしまうようなこともあったという。
南本牧第1倉庫において、本格的に『トラック簿』導入が検討され始めたのは、新型コロナウイルスの流行がきっかけだった。感染予防対策として、非接触式受付の実現が急務となったのだ。
結果、2021年6月に『トラック簿』を導入したのだが...
トラック予約受付システム、導入後のリアル
住友倉庫南本牧1倉庫 菅原香里奈氏は、『トラック簿』導入当時のことを、「『トラック簿』の利用が浸透するまでは、1年位かかりました。心が折れそうになったこともありました」と振り返る。
『トラック簿』の導入は、宵積み朝着の入庫車両ドライバーから行った。
この理由について、住友倉庫南本牧第1倉庫 清水駿輔氏は、「早い人の中には、夜中の2~3時には近隣に到着し仮眠を取り、事務所がオープンする8:30に受付をした後、再びトラックに戻って仮眠を取る人もいます。そういったドライバーさんたちに、『トラック簿で受付をしてくれたら、呼び出しをかけるまでトラックで待機していてください』という気持ちもあったのですが…」と説明する。
住友倉庫側の「『トラック簿』導入で、ドライバーの皆さんに楽になってもらいたい」という想いとは裏腹に、いくつかの問題が生じた。
南本牧第1倉庫は、場所柄、さまざまな運送会社の、さまざまなドライバーが訪れる。一見(いちげん)のドライバーが比較的多かったのだ。結果、『トラック簿』を初めて使うドライバーたちに、毎日のように『トラック簿』の使い方をレクチャーする必要性が発生したのだ。
中でももっとも南本牧第1倉庫が苦労したのが、携帯電話を持たずに受付に来るドライバーの存在である。
「トラックを駐車した場所から、受付までは相応の距離があります。そこを歩いてきたドライバーに、『携帯電話を持ってまた来てください』というのは、とても心苦しかったです」(清水氏)
導入時の苦労から脱却し、『トラック簿』導入効果を実感するまで
菅原氏は、「来る日も来る日も多くのドライバーに説明しなければならず、心が折れそうになったこともありました」と言いつつも、同時に、「一方で、『紙での受付』というストレスは軽減されましたし、『地固めをきちんとすれば、良い方向に向かうはず』という感触はありました」と振り返る。
結局、『トラック簿』が順調に運用できるようになるまでに1年くらいかかった。この背景には、住友倉庫の努力とともに、『トラック簿』の普及がある。
令和2年の総務省による国勢調査によれば、現在のトラックドライバー数は、およそ78万人である。対して、『トラック簿』を利用するドライバーの数は今や24万人を超えた。3人~4人に1人が使用していることになる。
競合他社のアプリを含め、トラック予約受付システムがドライバーの間に広まったこともあり、ドライバーの拒否反応が少なくなったものと住友倉庫では推測している。
住友倉庫南本牧第1倉庫の所長 斉藤裕治氏は、「現在、住友倉庫では『トラック簿』を複数倉庫に導入していますが、年々、『トラック簿』の利用者が増えていることを実感しています。特に横浜地域では、利用者が多いように感じます」と語る。
『トラック簿』の導入効果は?
『トラック簿』導入以前の南本牧第1倉庫では、受付後、どこかに行って連絡が取れなくなり、荷渡しに相当時間を要するドライバーもいたそうだ。しかし、導入後はそのようなケースはなくなったという。
入構証をデジタル化できた効果も大きい。
南本牧倉庫第1倉庫はAEO制度の承認を受けた保税倉庫であるため、来訪者の入退時刻の記録と入構証をドライバーに発行する必要がある。
ドライバーの目線に立ってみると、入庫の際は、納品に関する書類受け渡しの都合上、受付まで足を運ぶ必要があるが、出庫の際は入構証のデジタル化により、受付まで足を運ぶ必要が無くなった。また、住友倉庫としても発行及び返却の事務を省略できたことの効果は大きい。
『トラック簿』を導入したことで、リアルタイムにトラックの待機台数が分かるメリットも大きい。
今までは、バインダーに閉じた伝票を数えて待機台数を把握するしか方法がなかったが、『トラック簿』を導入し、現場の作業状況もデータ化したことで、進捗の見える化ができるようになったのだ。
話は変わるが、昨年あたりから、「現場の作業状況をデータ化し見える化する」というデータ活用に対するニーズが急速に高まっていると筆者は感じている。(実際、昨年はデータ化をテーマとした記事執筆の依頼が増えた)
ご承知のとおり、物流業界はアナログな職人技的な勘と経験値の高さが必須とされてきた。
しかし、勘と経験による業務遂行は、裏付けがないだけに「効率が良いはず」「生産性が高いはず」と思い込んでいるだけかもしれない業務も少なくないと思われる。
「物流の2024年問題」に代表される物流クライシスを背景に、物流現場の省人化や生産性向上が求められる今、裏付けのない勘と経験に頼らず、日々現場が生み出し続ける各種のデータを分析し、最適解を求めようとするデータ活用が注目されているのだ。
ただし、データ活用は簡単ではない。
「データ活用を行おうとしたけれども、どうにも上手くいかない」という声も聞こえてくる。
原因はいくつかある。
筆者が取材した中には、「データ活用のためにたくさんの分析画面を用意したら、利用者がついてこられなくなった」というケースが意外と多い。
これは、真面目かつそれなりに高いITリテラシーを備える企業が陥る失敗である。端的に言うと、データ活用の担当者が頑張るあまり、現場にとって使いやすいものでなくなってしまうのだ。
ある大手3PL企業は、データ活用の極意について、「利用者が面白いと思える分析画面を厳選することが必要」と言っていたが、そのとおりだと思う。
ただし、この境地に達するまでには、それなりの修練が必要なのも事実。実際、この3PL企業も、過去にデータ活用プロジェクトを頓挫させている。
その点、『トラック簿』では、モノフル側が多くのユーザーの声をもとにして準備された「使える・使いたくなるデータ分析画面」に絞って提供しているから安心できる。
話を住友倉庫に戻そう。
旧来行っていた紙ベースでの受付では、データ活用は事実上難しかった。紙に書かれた受付記録をデータ入力する手間もさることながら、ドライバーの手書きによる受付内容は、書き間違いや、「乱筆乱文ゆえに読めない」といった問題があり、正確性に欠けるからだ。
しかし、南本牧第1倉庫では、『トラック簿』によって待機台数と待機時間を見える化し、改善を重ねた結果、最終の出庫終了時刻が、導入前は19時頃だったのが、今では18時すぎに早まったそうだ。
『トラック簿』への期待
住友倉庫では、実は他社のトラック予約受付システムを導入している拠点もあった。
数あるトラック予約受付システムの中で、『トラック簿』を選択した決め手はなんだったのか。
「導入する側としては、『トラック予約受付システムを導入しても、期待した効果が出なかったらどうしよう...』という懸念はどうしても抱いてしまいますが、『トラック簿』の競合他社と比較し、初期費用が安く、また契約期間の縛りがなく、一ヶ月単位での契約が可能といったメリットは大きかったです」(清水氏)
もちろん、コストや契約上のメリットだけが決め手だったわけではない。
「アプリ上での情報の一覧性・視認性が高かったことも『トラック簿』導入の決め手でした」(清水氏)
清水氏は、『トラック簿』を南本牧第1倉庫に導入した当時、「正直申し上げて、『トラック簿』を導入することで、何かが大きく変わるような期待をしていたわけではありません」と話す。
だが、既に述べたように、『トラック簿』は南本牧第1倉庫の現場に大きな改善効果をもたらした。
では今後、住友倉庫は『トラック簿』にどのような期待をかけているのだろうか。
住友倉庫 業務部 企画課 兼 業務課 山田卓人氏は「倉庫においては『どのドライバーが来たのか?』というところから始まり、そこに何をどれだけ積み下ろしするのかという情報を紐づけます。
つまり、トラック予約受付システムを起点として、WMSをはじめとする他の業務システムとのデータ連携を図ることが物流DXに繋がると考えており、この点で、『トラック簿』は私どもの今後のビジョンにマッチするシステムだと判断しています」と語っている。
さらに将来、住友倉庫は『トラック簿』を含めて、どのような物流DXを目指すのか?
「極論ですが、『ドライバーの負担も軽減しつつ、事務方の手間が何も掛からない』というのが理想です。『トラック簿』でドライバーが受付をしてくれたら、後は人の手を介さず、そのまま現場作業員に情報を流すことができるようになれば良いですね」(山田氏)
荷待ち・荷役時間の削減が義務化される今、考えるべきこと
「物流の2024年問題」が間近に迫った今、物流事業者に対する改善へのプレッシャーは高まるばかりである。
一方で、「変革すること」に伴う痛みを恐れ、行動を起こせない事業者も多くいる。
だが山田氏は断言する。
「例えば荷待ち時間にしても、いきなり3時間が10分になるわけがありません。現場からすれば「言うは易し行うは難し」で、『トラック簿』の導入に限らず、新しいことに取り組むというのは大変な労力を要しますよ。
しかしそれでも、愚直に改善や変革に取り組んでいくしかありません」(山田氏)
とは言え、ことトラック予約受付システムについて言えば、住友倉庫が体験したような産みの苦しみは、現在軽減されていることは付け加えておこう。前述のとおり、『トラック簿』アプリを利用するドライバーの数が圧倒的に増えたことに加え、『トラック簿』そのものも進化しているからだ。先に挙げた時間別の待機台数レポートなどはその好例で、『トラック簿』では現場の改善や変革に求められるデータレポートを、あらかじめ複数用意している。
繰り返しになるが、荷待ち・荷役時間の削減は政府が推める「物流革新」政策における柱の1つであり、取り組まない企業はペナルティを課せられる。
もはや、荷待ち・荷役時間の削減に「待った」は許されないのだ。
ぜひあなたも勇気を持って、一歩を踏み出して欲しい。