凸版物流株式会社 #2 大阪物流センター

「待機時間の削減ってどうすればいいの?」──凸版物流 大阪物流センターにおける「等身大の導入事例」から学ぶ、トラック予約受付システムを2週間で定着させる方法


 「等身大の事例である」──凸版物流 大阪物流センターにおけるトラック予約受付システム『トラック簿』を取材して感じたことだ。

 物流関係に限らず、これまで筆者はさまざまな導入事例を取材してきた。その経験から言えば、ソリューションベンダー側は、(誤解を恐れずに言えば)「頑張っている」導入先を、事例の取材先に選びがちである。
 だが「頑張った」導入事例は、得てして読者の共感を得にくいことも多い。

 「参考にはなったけど、ウチではムリだよ...」と思われてしまうのだ。(実際、過去に筆者も何度も言われたことがある)

 今回ご紹介する大阪物流センターが、頑張っていないわけではない。
 だがその頑張りは、例えてみれば普段運動を怠っている人が、「ちょっと、2~3km走ってみようか...」くらいの頑張りであって、「フルマラソンで3時間以内完走を目指すぞ!」といった真似し難い、ものすごく高いレベルの頑張りではない。

 『トラック簿』導入前に、大阪物流センターが抱えていた課題も、限りなく深刻な状況ではないが、多くの物流センターが、「そうそう、ウチもそんな感じなんだよ」と膝を打ちたくなるような、良い意味で「どこにでも転がっていそうな」課題感である。

 等身大だからこそ真似することも難しくない。
 等身大だからこそ、きっと共感する事業者も多いであろう、大阪物流センターにおけるトラック予約受付システム『トラック簿』の導入事例をご紹介しよう。

『トラック簿』導入前の状況

 大阪物流センター(大阪府豊中市)は、耐震構造などに問題を抱えていた尼崎の旧事業所から2022年6月に移転してきた。複数の企業が入居する物流施設の1階および2階が、大阪物流センターである。
 1階スペース(約1,600坪)は、親会社であるTOPPAN関係の荷物を中心に扱っている。対して、2階(約400坪)では、親会社に限らず、寄託倉庫として幅広いビジネスを展開している。

カレンダーの個別包装を行っている様子。荷扱いの難しい、ともすれば敬遠されがちな平判(規定サイズにカットされた紙製品)や、紙製品関係の流通加工・包装を寄託で請け負うことができるのは、凸版物流の強みである。

 2フロア約2,000坪の倉庫に収納される貨物は約2,800tである。
 入出荷については、日々平均約40台の協力会社と、5社の路線便で担っている。特に1階フロアについては、TC型物流センター(Transfer Center、通過型)としての色合いが濃い。

凸版物流 西日本統括本部 関西物流一部 部長 山口輝久氏

 「正直に言えば、ドライバーを待たせていることに気が回っていませんでした」──山口氏は、トラック予約受付システム『トラック簿』導入以前における大阪物流センターの状況を、率直に反省する。
 以前は、ノートを用いた受付簿すらも用意しておらず、とにかく到着した順番に待機してもらい、荷役を行っていた。

 「尼崎から移転した直後でもあり、仕事を増やしていこうという時期でもありましたから...」と山口氏は振り返る。

 また、凸版物流 西日本統括本部 関西物流一部 大阪物流センター 内山信也氏は、「入庫予定の荷物は事前に分かっていますから、『今日は、◯◯運送のトラックが来るはずだよな』というのはなんとなく分かります。その『なんとなく』があったものですから、『申し訳ない』という気持ちを感じることなく、待機させてしまっていたのが本音です」と当時を振り返る。

 こういった無自覚で発生させてしまっている荷待ちを批判するのはたやすい。
 しかし、日々業務の多忙さに加え、「なんとなく」その日のトラックの出入り状況を把握しているがゆえに、待機時間の削減に取り組んでこなった物流センターは、全国各地にごまんとあるはずだ。

なぜ、凸版物流 大阪物流センターは、待機時間の削減に取り組み始めたのか?

凸版物流 西日本統括本部 関西物流一部 大阪物流センター 内山信也氏

 では、大阪物流センターが、待機時間問題に取り組むようになったきっかけは何だったのか?

「『物流の2024年問題』が話題となり、一般メディアでも取り上げられ始めた頃から、『このままでは良くないよな』と感じていました」(内山氏)

 もう1つ、きっかけになったのは一斉出荷である。
 大阪物流センターでは、時折、一日に20~30台のトラックを手配し、大量の荷物を一日のうちに出荷する一斉出荷を行う。ある時の一斉出荷において、待機車両をうまくさばくことができず、同居する他テナントに迷惑をかけてしまったことがあったのだ。
 もちろん、凸版物流も混乱を予測していなかったわけではない。入出荷車両の手配時に、それぞれ入庫時間を指定することで混乱を回避しようとしたのだが、実際には指定入庫時間を守らずに着車したトラックがいたこともあり、他のテナントにも迷惑をかける結果になってしまったのだ。

 「今から振り返れば、これまでのやり方を反省し、ちゃんと待機時間削減に向き合う、良いきっかけとなりました」と山口氏は苦い過去を振り返る。

大阪物流センターから出荷される貨物の7割は、路線便が担う。

わずか2週間で『トラック簿』を現場に定着させられた理由

  物流関係のシステムに限らず、新たなシステムを導入しようとすれば、苦労はつきものだ。特にトラック予約受付システムの場合、使用する人の中には、自社従業員ではない協力会社のドライバーもいる。

 実際、協力会社ドライバーの中には、『トラック簿』を用いた受付を行うタブレットを目にした途端、「あかん、分からへん!」と拒否反応を示す人もいたという。

 『トラック簿』による受付方法を説明するのは、大阪物流センターのメンバーである。最初のうちは上手に説明できず、ストレスを感じることもあったそうだ。

 では『トラック簿』導入時の混乱を乗り越えた要因は何だったのか?

 山口氏は、「大阪物流センターメンバーが上手に『トラック簿』の使い方を説明できるようになったことももちろんですが、やはりドライバー自身が『トラック簿』にわりと早く慣れてくれたことは大きかったです」と振り返る。

 大阪物流センターに出入りするドライバーに対する『トラック簿』普及に一役買ったのが、『トラック簿』のオプションサービスである通知管理機能である。これは、『トラック簿』で受付を行ったドライバーに対し送信されるメッセージにおいて、物流センター独自のメッセージを追加できる機能だ。

ドライバーが受信する受付完了メールのイメージ。上は受付完了とともに送信される『トラック簿』規定のメッセージだが、オプションの通知管理機能では、下のようなオリジナルメッセージを送信できる。

通知管理機能でドライバーへ案内される動画の一部。動画には合成音声による案内も付く。

 ちなみにこの動画については、2023年8月の『トラック簿』利用開始から3ヶ月で800回ほど視聴されている。大阪物流センターに日々出入りするトラックが日々40台程度であることを考えると、とても高い頻度で閲覧されていることが分かる。

※なお、その他のWebマニュアルについては、以下のリンク先から確認してほしい。
https://teachme.jp/100694/manuals/25965154 

 大阪物流センターでは、構内案内を掲載した2本の動画(2分弱と30秒強)に加え、「『トラック簿』によるスマートフォンでの受付方法」、「予約時の注意点」の計4つのWebマニュアルを用意し、ドライバーへの周知徹底を図った。ちなみに、これらのWebマニュアルはモノフルがサポートし、作成したものである。

 「結果的には、2週間設けたトライアル期間において、導入の課題はひととおり解決できました」(内山氏)というから、『トラック簿』導入時に苦労はあったものの、その苦労は最小限に抑えることができたと言うべきだろう。

『トラック簿』導入の効果

 既に触れたとおり、大阪物流センターでは『トラック簿』導入以前、受付簿を用意しておらず、したがって日々どれくらいのトラックが、どれくらいの時間、待機していたのかは把握していない。
 『トラック簿』を導入した現在、受付から積み卸し開始までの所要時間は、平均30分程度だという。

 「あくまで感覚的なものですが、『トラック簿』を導入した結果、フォークリフトオペレーターの負担が減ったと感じています」と内山氏は語る。

 『トラック簿』導入前は、構内のどこかで待機しているはずのドライバーを探したり、あるいは電話をかけて呼び出す手間が、フォークリフトオペレーターの負担となっていた。しかし『トラック簿』導入後の今では、『トラック簿』受付用タブレット操作し、ドライバーを呼び出すことができるようになった。

2階に置かれたタブレット。ドライバーは1階に設けられたタブレットないし自身のスマートフォンから受付操作を行うため、2階のタブレットを操作するのは、主として大阪物流センターのフォークリフトオペレーターだけである。

モノフルのサポート体制について

凸版物流 経営企画本部 情報システム部 部長代理 岩崎敏氏

 物流事業者が行う業務には、必ず発荷主や着荷主、あるいは協力会社が関係する。したがって、凸版物流のような物流事業者が使うシステムにおいて、不具合や運用上の問題が生じた場合、それは多かれ少なかれ発荷主・着荷主・関係会社に対しても問題を波及させる危惧をはらむ。

 モノフルのサポート体制について、岩崎氏は、「驚くほど回答や対応のスピードが早い」と称賛する。

「最近では、各システムベンダーのサポート体制についても、総合相談窓口を設け、専門の電話オペレーターが利用者からの相談の一次受付を行うケースが増えています。ただ、こういう体制だと、得てして回答を得るまでのリードタイムが長くなってしまいがちで、荷主や協力会社を待たせている私ども物流事業者としては、気をもむケースもあります。しかし、モノフルに関しては、とにかく回答や対応のレスポンスがびっくりするほど早く、とても助かっています」(岩崎氏)

 もちろん、モノフルの『トラック簿』ユーザーに対するサポートは、レスポンスの早さだけにアドバンテージがあるわけではない。

「導入時にはもちろん、運用している現在においても、さまざまな相談に乗ってもらったり、またより使い勝手を良くするための提案もしてもらっています。
 Webマニュアルや大阪物流センター構内案内動画はもちろんですが、『受付時の必須入力項目をどのように設定するのが、より当事業所にとって適切なのか?』といったことまで、当事業所の運用を考慮した、細やかなサポートには感謝しています」(内山氏)

 こういったモノフルのサポート姿勢は、物流事業者、あるいは現場の事情を熟知しているモノフルだからこそこだわり、そして実現できているのであろう。

もし、「荷待ち・荷役時間の削減」が法律により義務化されたとしても

 「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスにおいて、荷待ち・荷役時間の削減は、優先事項として位置づけられている。2024年度に不足するドライバー約14万人相当の輸送リソース不足に対し、荷待ち・荷役時間の削減は4.5万人相当の対策効果を期待されているからである。 

 政府は、2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」と「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)を発表、次いで2023年10月には「物流革新緊急パッケージ」を発表した。

 例えば、荷待ち・荷役時間の削減については、ガイドライン内で「荷待ち・荷役作業等時間2時間以内ルール」を定め、「荷待ち、荷役作業等にかかる時間を計2時間以内とする」、「2時間以内を実現できた事業者は、目標時間を1時間以内と設定しつつ、さらなる時間短縮に務める」としている。

 今後、政府の「物流革新」政策は、2024年1月の通常国会で審議され、一部は法制化されるはずだ。「荷待ち・荷役作業等時間2時間以内ルール」については、達成できなかった場合、何かしらのペナルティが法制化される可能性がある。

 もし法制化されたら、おそらく世に数多ある物流センターの担当者は、ひどく動揺するだろう。『トラック簿』導入前の凸版物流 大阪物流センターのように、無自覚のうちに待機時間を発生させてしまっている事業所は、たくさんあるはずだからである。

 だが安心して欲しい。
 本稿で紹介した大阪物流センターの『トラック簿』導入前の状態には、「ウチも同じだよ」と共感を覚える人も多いはずである。

 しかも、(あえてここまで書かなかったのだが)大阪物流センターが『トラック簿』を導入したのは、実は2023年8月である。物流業界ではありふれた課題、ありふれた状況にあった大阪物流センターが、わずか2週間で『トラック簿』を現場に定着させ、3ヶ月たった今(※取材時)、「荷待ち・荷役作業等時間2時間以内ルール」をゆうゆうとクリアしているのだ。

 今まさに、「荷待ち・荷役作業等時間2時間以内ルール」に戦々恐々としている物流センター担当者と、大阪物流センターの違いは、「荷待ち時間削減という課題があることを認め、真摯に向き合ったこと」、そして「トラック予約受付システムの導入を決断したこと」である。

 「荷待ち・荷役作業等時間2時間以内ルール」に対し、諦めることも、過度に恐れることもない。
 あなたにだって、きっと「荷待ち・荷役作業等時間2時間以内ルール」をクリアすることはできるはずだからだ。

 

(物流ジャーナリスト 坂田良平)

取材にご協力いただいた、凸版物流 西日本統括本部 関西物流一部 部長 山口輝久氏(左)と、凸版物流 西日本統括本部 関西物流一部 大阪物流センター 内山信也氏(右)



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