凸版物流株式会社 #3
凸版物流の取り組みから学ぶ、「今求められる物流事業者のデジタライゼーションとは?」
「まずは動いてみる。結果、ダメな時は、違う手段を考えよう」──これが凸版物流を率いる、代表取締役社長 山野泰彦氏の基本的なスタンスだと言う。
今回、トラック予約受付システム『トラック簿』の導入事例記事執筆にあたり、関宿事業所、大阪物流センターを取材した。
筆者が感心したのは、凸版物流が備える、トライ・アンド・エラーを恐れぬ心、そして改善・進歩することを前向きに取り組む社風である。
「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスに対し、むしろピンチをチャンスと捉え、ビジネスの勝機を見出すのはこういう会社なんじゃないかとさえ思う。
凸版物流を取り巻く状況
凸版物流は、言わずと知れた印刷業界の雄、TOPPANグループ(旧 凸版印刷)の物流子会社である。
凸版物流は今、2つの課題を抱えている。
1つは、親会社のビジネス変遷である。
言うまでもなく、雑誌、新聞、書籍など、紙の出版物は減少している。その影響から、TOPPANもデジタルビジネス進出を積極的に行っている。
紙出版物の減少は、当然荷量の減少に直結する。
物流子会社である凸版物流としては、親会社からの輸送ニーズを期待し続けることはできず、「自前で荷物を集める」、つまり外販比率を高めていかなければならないのだ。
もう1つは、凸版物流が荷主であると同時に事業者でもある点である。
「物流の2024年問題」に対し、政府は「物流革新」政策を掲げ、発荷主、着荷主、親請物流事業者、実運送会社のそれぞれに対し、それぞれの立場にマッチした物流改善を課そうとしている。
荷主であり事業者でもある凸版物流は、荷主・親請物流事業者・実運送会社のそれぞれが課される物流改善に対し、全方位で取り組まなければならない。
つまり、ただの荷主、あるいはただの運送会社よりも、より広範囲に物流改善に取り組む必要があるのだ。
「改善活動を楽しむ」、凸版物流 関宿事業所が備えるポジティブさ
筆者は、物流ジャーナリストという仕事ゆえに、さまざまな荷主や物流事業者と面談を行っている。
その経験から、「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスに対する各社の対応は、2つに大別されていると感じてきた。
「これは全社的に取り組むべき課題である」と四角四面に取り組んでいる企業が1つ。こういった企業の中には、「物流の2024年問題は大問題だ!これをクリアしないと生き残れないぞ!!」と悲壮感を漂わせているケースもある。
もう1つは、「いや、もう何をしたらいいのか分からないし。そもそも『物流の2024問題』って本当に起こるの??」と諦めている(放り出している)企業である。
凸版物流は、そのどちらとも違う。
誤解を恐れずに端的に言えば、凸版物流は、前向きに物流クライシスに取り組み、むしろ改善活動そのものに知的好奇心を抱いている様子すら感じるのだ。
これをとりわけ強く感じたのは、関宿事業所において、泊氏が、『トラック簿』のデータを分析集計するExcelVBAを披露したときであった。
泊氏の上長である情報システム部 部長代理 岩崎敏氏が、部下の仕事ぶりを嬉しそうに披露しているのはある意味当然かも知れないが。
関東物流五部 幸手・野田・柏G (関宿) 係長 矢島一男氏は、ノートに書かれたドライバーの受付状況を、自身も手集計でExcelに入力し、そして分析していた経験がある。自分自身が苦労していた集計と分析を、自動処理してくれるExcelVBAを開発してくれた泊氏に対し、喜びを隠せない気持ちはよく分かる。
関宿事業所を含む、複数の事業所を統括する立場にある関東物流五部 部長 馬場洋平氏は、若手二人が創意工夫し、改善に対するディスカッションを行う様子を、目を細めて慈しんでいるように見えた。
同様のことは、大阪物流センターの取材中にも感じた。
現場を取材し、新たな改善に対する気づきを得たモノフルの山下、東海が、山口氏、内山氏にその説明をしていたのだが、凸版物流のお二人が、「もっと改善できる方法があるんだ!?」と知的好奇心を感じているように、筆者には見えたのだ。
当然、凸版物流の皆さまも、「物流の2024年問題」に対しては、焦りも危機感も感じているはずだ。そのことは、関宿事業所でも、大阪物流センターでも、それぞれのメンバーがインタビューにおいて語っている。
だが同時に、自分たちが成した改善に対し、知的好奇心を感じ、前向きに取り組むことができるのは、とても大切で貴重な素養である。
なぜならば、これはすべての企業が持ち得ている素養ではないことを、物流ジャーナリストを生業とする筆者は知っているからである。
今求められる物流事業者のデジタライゼーションとは?
誤解のないように申し上げれば、凸版物流は浮ついた、あるいは気分屋的な改善活動を行っているわけではない。
その最たる例が、毎月行われている物流構造改革会議である。
● 会議のテーマは、毎回社長自らが提議する。
● 毎回、事業所ごとにテーマに対する進捗状況を報告する。
これを毎月回行うわけだから、相当に厳しいはずだ。
岩崎氏は、「ええ、まぁ...、大変ですね」と苦笑していたが、どこか楽しげでもあった。これはきっと、凸版物流という組織が、風通しが良い上、手掛けてきた改善活動において結果を出しているからではないだろうか。
関宿事業所における荷待ち・荷役時間削減に対する取り組み(詳しくは関宿事業所の『トラック簿』導入事例記事をご覧いただきたい)においては、現場担当者である矢島氏が率先して改善活動を行っている。
つまり、トップダウンの意志を現場が理解したうえで、現場からのボトムアップで改善活動をドライブしているのだ。
山野社長は「悪いところは徹底的に潰していこう」と言っているらしいが、これは言うは易く行うは難しの典型である。
と言うのは、改善を徹底するためには、トップダウンだけでも、ボトムアップだけでも駄目だからだ。トップダウンとボトムアップ、両方から改善活動を行えていることが、凸版物流が改善活動において成果を上げられる理由の1つではないだろうか。
もう1つ、「まずは動いてみる。結果、ダメな時は、違う手段を考えよう」
とは言いつつも、闇雲にチャレンジするのではなく、きちんと抑えるべきポイントは抑えていることもポイントだ。
例えば、「解約がフレキシブルにできる」(年単位ではなく)月単位の契約方式を採用している 『トラック簿』を選択したことも筋が通っている。
オンプレミスではなく、クラウドサービスを選択したのも、トライ・アンド・エラーを前提としており、同様に筋が通っていると筆者は考える。
実は今回、取材中の雑談において、配車システムとWMSについて、意見を求められた。
今の時代、改善活動を行おうとすれば、自ずとデジタルツールに行き着く。凸版物流では、今後包括的にデジタライゼーションを進めていき、各種ソリューションから得たデータをマージし、統合的に管理できるようにしていきたいのだそうだ。
岩崎氏は、「『トラック簿』の導入についても、データを取ることも目的の1つでした」と明かす。
こういった戦略性を持って改善活動を推し進めていくことができる企業は強い。
物流事業者に限ったことではないが、デジタルツールを導入していくときに、そこに戦略性がある企業と、戦略性を持たず、場当たり的に導入を進めていく企業がある。残念ながら、物流事業者においては、もともとデジタルツールに強い、あるいは慣れていない企業が多いことから、後者の企業が多い。
デジタルツールは、確かに導入するだけで一定の効果が得られる。だが、その時点で満足してしまってはもったいない。
凸版物流のように、戦略的にデジタライゼーションを推し進めていく企業は、足し算ではなく、掛け算で効果を生み出していくからである。
「まずは動いてみる。結果、ダメな時は、違う手段を考えよう」
──こういった考え方は、ともすれば朝令暮改※のような文脈で解釈されがちだが、今、物流ビジネスには、まさにこういったスピード感やトライ・アンド・エラーの精神が求められている。
何しろ、残り半年を切った2024年4月1日から発動する「物流の2024年問題」に対する政策が、今に至るも法制化されていない日本でのことである。
「法制化やら、物流事業者、荷主に対する義務や罰則が分かってから対策すれば良いよ」といったスピード感では後手に回ってしまうことは、少し考えれば明らかだ。
凸版物流は、なぜわずか3ヶ月でトラック予約受付システム『トラック簿』を導入し、全国28拠点までスピード展開できたのか?
「まずは明るく前向きに」、そして「戦略性を持って、改善にあたっていくこと」。
「ピンチはチャンス」と言うが、「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスに対し、物流事業者の多くは、ピンチの部分に囚われ過ぎではないだろうか?
凸版物流のように、ピンチを楽しみ、改善活動に知的好奇心を感じるくらいの余裕がある方が、良い結果を出すことができると筆者は考えている。
凸版物流におけるデジタライゼーションへの取り組み姿勢は、きっと多くの物流事業者にとって、学びとなるはずである。
※朝令暮改
「朝に出した命令を、夕方には変更すること」。転じて「方針が定まらない」といった意味で用いられる。
(物流ジャーナリスト 坂田良平)
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