(前編)「四角いスイカ」の発想 ── 物流に変革をもたらす、新世代の物流人材とは? - 対談 東京大学 西成活裕教授×モノフル 代表取締役社長 藤岡洋介

 物流ビジネスは、大きな転換点を迎えようとしている。

 トラックドライバーの人材不足や、生産性の向上といった課題を打開するために、物流DXやフィジカルインターネットといった、大きな潮流が押し寄せている。

 新たなテクノロジーも、革新的なビジネスも、それを扱うことのできる人材があってこそである。

 東京大学 先端科学技術研究センター数理創発システム分野/工学系研究科航空宇宙工学専攻 西成活裕教授が、東京大学工学系研究科(大学院博士課程)でチャレンジしている、サイエンスで物流の未来を創ることのできる高度物流人材の育成は、物流改革の原動力となりうる可能性を秘める。

モノフル 代表取締役社長 藤岡洋介と交わすディスカッションに、耳を傾けてみよう。

高度物流人材育成講座、開始までの道のり

 物流の未来のためには、高度物流人材が必要である ── そう考えた西成教授は、東京大学工学系研究科において、高度物流人材を育成する講座を開始するために、さまざまな物流企業に支援を募った。5年ほど前のことである。

 だが、反応は芳しくなかったと言う。

西成教授

「いろいろな物流企業に支援を打診したのですが、『それがウチにとって、どんなメリットがあるの?』と、断られ続けました。

 苦労はしたものの、現在は講座を開始することができ、私の講座には、優秀な学生が100人集まっています」

 西成教授は、渋滞を数理物理学からアプローチする渋滞学を専門としている。
 イグノーベル賞も受賞し、またTOKYO2020では、安全な観客誘導を目指す、東京オリンピック組織委員会アドバイザーとしても活躍した。

 そんなユニークな経歴を持つ西成教授が、物流人材の育成を行う理由はとは?

西成教授

「『スイッチを押せば、明かりが灯る。蛇口をひねると水が出る』、当たり前のことですが、そこには、ちゃんと私たちの生活を支えてくれる人たちがいます。
 物流も同じで、最近は社会のインフラとして、私たちの生活を支える物流の重要性に多くの人たちが気づき始めました。

 同時に、『物流って、困っているんだ? なんとかできないだろうか?』という関心を持つ学生が現れ始めました。

 ただし、一方で、東京大学に通う多くの学生たちにとって、物流企業は就職の選択肢にありませんし、研究課題にすらなっていないという現実があります」

 西成教授は、これからの物流ビジネスに、大きな可能性を感じている。日頃から西成教授は学生に対し、「今、自分が学生だったら、物流企業に就職している」と言い続けているのもそのあらわれである。物流に対する高度で専門的な人材教育の場が、東京大学にも実現できないかと長い間に思案してきたのも、物流ビジネスへの強い思いがあったからである。

宅配クライシスをきっかけに、注目され始めた物流だが...

 「宅配便の再配達による社会的損失は、年間約1.8億時間・年約9万人分の労働力に相当する」── 2015年10月、国土交通省が発表した宅配便の再配達問題に対するレポートは、大きな話題を呼んだ。いわゆる、宅配便クライシスである。

 普段は物流関係のニュースには目を向けない、TVや経済誌、大手新聞などの一般メディアも、こぞって宅配便クライシスを取り上げた。 

「物流が抱える課題の本質は、宅配クライシスではない」── 藤岡は、指摘しつつも、このように語る。

藤岡

「とは言え、宅配クライシスは、物流業界が、世間から注目されるようになったきっかけにはなりました。
 世間から注目されることって、とても大切ですよ」

 藤岡は、注目されることの大切さを、ダイエットを志す人に例える。
 ダイエットを成功させるために、部屋に鏡を置く方法がある。まず、「今の自分」を診ることで、痩せるというマインドが育つのだ。

藤岡

「診られることで、物流業界が抱えていた課題が顕在化し、他の業界から参入するプレイヤーが増え、そして物流業界にも新たな資金が投入されるという流れが生まれます。
モノフルが設立されたのは、2017年です。モノフルは物流業界内から誕生した企業ではありませんが、物流業界の課題解決と発展に貢献できる存在でありたいと、切磋琢磨しています」

これから時代に求められる、物流人材とは?

 「消費者からすれば、自宅に荷物を届けてくれるのは誰でも良い」── 西成教授と藤岡は、口を揃えて指摘する。これは、来たるべきフィジカルインターネットを考える上では、とても大切な考え方の一つである。

 だが分かっていても、今現在、物流に従事している人たちにとって、この言葉を口にすることは、とても難しい。この言葉は、既存の物流ビジネスを否定する、パンドラの箱となりかねないからである。

 これは一例に過ぎない。
 物流に改革をもたらすのは、今までの物流のしがらみに囚われていない、柔軟でユニークな発想を備えた、新世代の物流人材であろう。

 後編では、タイトルにある「四角いスイカ」の秘密を解き明かしつつ、二人が求める物流人材について、さらに深堀りしていこう。

── 後編に続く。

自己紹介

西成活裕 (東京大学 先端科学技術研究センター 数理創発システム分野/工学系研究科航空宇宙工学専攻 教授)

1967年東京都生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)の学位を取得。その後、山形大、龍谷大、ドイツのケルン大学理論物理学研究所を経て、現在は東京大学先端科学技術研究センター教授。ムダどり学会会長、ムジコロジ―研究所所長などを併任。専門は数理物理学。様々な渋滞を分野横断的に研究する「渋滞学」を提唱し、著書「渋滞学」(新潮選書)は講談社科学出版賞などを受賞。2007年JSTさきがけ研究員、2010年内閣府イノベーション国際共同研究座長、文部科学省「科学技術への顕著な貢献 2013」に選出、2021年イグノーベル賞受賞。東京オリンピック組織委員会アドバイザーを務め、日経新聞「明日への話題」連載、日本テレビ「世界一受けたい授業」やTBSテレビ「東大王」に多数回出演するなど、多くのテレビ、ラジオ、新聞などのメディアでも活躍している。趣味はオペラを歌う事、そして合氣道の稽古。

藤岡洋介 (株式会社モノフル 代表取締役社長 / 日本GLP株式会社 執行役員)

2018年8月、日本GLP株式会社のグループ会社である株式会社モノフルの代表取締役社長に就任。また日本GLPでは執行役員、並びに投資運用本部の本部長として、物流不動産私募ファンド組成、及びマネジメントの責任者を務める。

以前は、GLPグループのファンドマネジメント部門にてグローバルのファンドビジネスや、日本GLPにおいてファンド、アセットマネジメント業務に従事。

日本GLP入社前は、2008年8月からプロロジスに在籍し、日本のポートフォリオのアセットマネジメントを担当。

慶應義塾大学商学部卒業。


執筆 坂田良平

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