(後編)「四角いスイカ」の発想 ── 物流に変革をもたらす、新世代の物流人材とは?- 対談 東京大学 西成活裕教授×モノフル 代表取締役社長 藤岡洋介

 「消費者からすれば、自宅に荷物を届けてくれるのは誰でも良い」── 東京大学 西成教授と、モノフル 代表取締役社長 藤岡が口を揃えて指摘するこの言葉は、言われてみれば当たり前のことだ。

 例えば、Amazonを利用する消費者の中で、自宅に購入した商品を届ける運送事業者がヤマト運輸か、日本郵政か、それともデリバリープロバイダなのかを気にする人は、ほとんどいないだろう。

 だが、今現在、物流に従事している人たちが、このような思い切った発想で、物流改革を行うことは難しい。しがらみもあるし、何よりも今の自分たちの立場を揺るがしかねないからである。

 物流DX、もしくはフィジカルインターネットといった物流改革の原動力となるのは、旧来の物流のしがらみとは無関係な、柔軟でユニークな発想を持つ、新世代の物流人材であろう。

 後編では、二人が求める物流人材について、さらに深堀りしていく。

「四角いスイカ」の発想

 「物流の全体最適化」── 西成教授は、この言葉に違和感を感じるという。
 理由は明快だ。
 製造も含めたサプライチェーン全体から診れば、物流も部分でしかないからである。

西成教授

「極論すれば、物流の最適化を目指すのであれば、『四角いスイカ』を作りなさいと言うことになります」

 「四角いスイカ」は、物流に最適化された製品の比喩である。
 球体のスイカに比べ、四角いスイカであれば梱包も楽だし、何よりも積載率を向上させられる。

 これからの製品開発を考える際には、物流効率も考えた上で製品開発を行う必要があると、西成教授は指摘しているのだ。

 実際、物流効率を考えた上で開発された製品は登場し始めている。
 例えば、「プチプチ」や「エアキャップ」などの製品名で知られる気泡緩衝材は、アメリカで進化を遂げ、気泡に空気を入れない状態で出荷できる製品が発明された。顧客は、使用前に専用ポンプで自ら空気を入れることになる。
 気泡緩衝材は、気泡を含むためかさばる。そのため、製品単価に比べて輸送コストが割高になりがちであった。
 しかしこの進化によって、気泡緩衝材は従来の47倍の輸送効率を達成したのだ。

ポイントは「物流 × ○○」のチカラ

 西成教授の講座では、大学での最先端研究の紹介と、物流現場からの生の声を聞く講義を交互に行っている。そして学生には現場見学の機会も与えられている。

 現場の課題を知った学生の中には、「ホントに現場は困っていますか?」「自分だったら、簡単に改善できる!」などと、口にする者もいるという。

 「『上目線から生意気なことを...』とヒヤヒヤすることもあるのですが、正鵠を得た指摘も多い」── 西成教授は、苦笑しながらも、自身の講座に集まる学生たちの資質に期待している。

 「むしろ、物流を知らなくても良いのでは?」── 藤岡は、西成教授の言葉に返し、このように続けた。

藤岡

「下手に現場を知ることで、柔軟な発想ができなくなる可能性もあります。
 また、同様の理由で、現場からの発信される改革力だけで、もはや数ある物流課題を解決し、物流に変革をもたらすのは難しいのではないでしょうか。
 物流に、別の才能を掛け算した、『物流 × ○○』のチカラこそが、今求められているものだと、私は考えています。」

「物流 × ○○」の集団であるモノフル

 「モノフルは、『物流 × ○○』の、○○の部分を磨いてきた人たちの集合である」── 藤岡は、自身が率いるモノフルのことを、このように説明する。

 モノフルの親会社であるGLPは、2009年に設立された、物流不動産のリーディングプロバイダーである。

 GLPでは、輸送や保管、荷役や流通加工といった物流の直ビジネスは手掛けていない。

 物流事業者ではないものの、誰よりも近い場所で、物流ビジネスに支え続けたという自負と実績は、物流が転換期にある今だからこそ、大きな可能性を持つ。

 

藤岡

「物流現場の改革力だけでは、物流の最適化や改革は難しいとは言いましたが、まるっきり業界外の人が、物流変革を図るのは無理でしょう。
 だからこそ、物流にきちんと軸足を置いた上で、『物流 × ○○』という物流以外の才能を磨いてきた人たちが、これからの物流を変革していく原動力になっていくものと、私は考えています。」

「一騎当千の強者」が、物流業界へ乗り込んでくる

 「優秀な学生が、物流業界へ乗り込んできて欲しい」── モノフルでなくとも良い、物流業界に、才能に溢れた学生が加わってくれることを、藤岡は願っている。
 そして、西成教授は、藤岡の望みは実現段階に入っていると考えている。

西成教授

「私も東京大学の出身ですが、必死に勉強して入学しました。ところが、東京大学には、ふわっと勉強しただけで、やすやすと入学してしまうような、本当の天才がいます」

 一例として、西成教授は自身の講座を受講している、ある学生のエピソードを紹介してくれた。
 その学生は、2020年にノーベル経済学賞を受賞した、オークション理論を応用し、曜日別の運賃制度を提唱する論文を書き上げたのだと言う。それも、わずか2週間でオークション理論を理解した上でだ。西成教授は、本物の天才と、その学生を評する。

 オークション理論は、その難解さでも話題となった。知りたい方は、ぜひネット検索して欲しい。ネット上には、オークション理論を簡単に説明すると謳った記事が無数に存在するが、そのほとんどは読者をさらに困惑させるだけの内容であることを知ることができるはずだ。

 

西成教授

「他の先生方に、高度物流人材の育成に協力して欲しいとお願いすると、皆さん『私に物流は分からないよ』と困惑されます。しかし、少し説明すると、こちらの意図を汲み取ってくれます。
 物流はすべてに通じるから、どんな専攻をされていても、まるで無関係ということはありえないからです。

 さらに言えば、私どものような総合大学は、藤岡社長のおっしゃる、『物流 × ○○』における、物流に掛け算できる才能を育てるには、最適です」 

 本物の才能を備えた、一騎当千の強者たちが、物流業界に乗り込んでくる。
 考えただけで、ワクワクする話ではないか。

現場からは、「四角いスイカ」の発想は生まれない

 とは言え、西成教授が育てた新世代の高度物流人材が活躍するためには、まだハードルがあるのも事実だ。
 その一つが、現場主義がはびこる物流業界の現状だと、藤岡は指摘する。 

 現場を知らなければ、物流ビジネスで一流になることは難しい ── 道理が通っているようだが、結果的に現場のしがらみに発想が囚われてしまい、「四角いスイカ」のような自由な発想の妨げとなる例を、私たちは数多く目にしてきたはずだ。

 モノフルは、西成教授が挑む、サイエンスで物流の未来を創ることのできる高度物流人材の育成に支援をしている。
 だがこれは、高度物流人材をモノフルが採用したいといった、狭い視野の話ではない。

 

藤岡

「西成教授から、物流ベンチャーを起業したいという学生も登場し始めていると聞いています。将来の選択肢の一つとして、起業もぜひ視野に入れて欲しいと考えています。
 大切なことは、学生のユニークで柔軟な発想を潰すことなく、優秀な人材が、その能力を遺憾なく発揮できる環境を整えることです。
 私たちも、微力ながらその支援をさせてもらっています。」

 物流DXやフィジカルインターネットなど、物流は大きな転換点を迎えようとしている。
 実現のためには、物流改革を実現する才能を備えた人材が必要となる。

 西成教授の元から巣立つ、若く才能に溢れた高度物流人材が、今後どのように活躍していくのか、楽しみにしよう。

自己紹介

西成活裕 (東京大学 先端科学技術研究センター 数理創発システム分野/工学系研究科航空宇宙工学専攻 教授)

1967年東京都生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)の学位を取得。その後、山形大、龍谷大、ドイツのケルン大学理論物理学研究所を経て、現在は東京大学先端科学技術研究センター教授。ムダどり学会会長、ムジコロジ―研究所所長などを併任。専門は数理物理学。様々な渋滞を分野横断的に研究する「渋滞学」を提唱し、著書「渋滞学」(新潮選書)は講談社科学出版賞などを受賞。2007年JSTさきがけ研究員、2010年内閣府イノベーション国際共同研究座長、文部科学省「科学技術への顕著な貢献 2013」に選出、2021年イグノーベル賞受賞。東京オリンピック組織委員会アドバイザーを務め、日経新聞「明日への話題」連載、日本テレビ「世界一受けたい授業」やTBSテレビ「東大王」に多数回出演するなど、多くのテレビ、ラジオ、新聞などのメディアでも活躍している。趣味はオペラを歌う事、そして合氣道の稽古。

藤岡洋介 (株式会社モノフル 代表取締役社長 / 日本GLP株式会社 執行役員)

2018年8月、日本GLP株式会社のグループ会社である株式会社モノフルの代表取締役社長に就任。また日本GLPでは執行役員、並びに投資運用本部の本部長として、物流不動産私募ファンド組成、及びマネジメントの責任者を務める。

以前は、GLPグループのファンドマネジメント部門にてグローバルのファンドビジネスや、日本GLPにおいてファンド、アセットマネジメント業務に従事。

日本GLP入社前は、2008年8月からプロロジスに在籍し、日本のポートフォリオのアセットマネジメントを担当。

慶應義塾大学商学部卒業。


執筆 坂田良平

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